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2010年10月 アーカイブ

睡眠は何のためにあるのか?

最も明快なのはいわゆる睡眠回復説でしょう。


たいへん率直に受け入れられる考え方ですから、アリストテレス以来の大昔から存在します。


この代表格とみなされるのがアメリカのHartmallとイギリスのOswaldでしょう。


彼らは睡眠が回復ないし修復に必須であることを生化学的に説明しようとしています。


つまり、ヒト徐波睡眠(ノンレム睡眠のうちの睡眠段階3+4)の際に成長ホルモンのまとまった放出が起こることを根拠として、DNAの修復や巨大分子のタンパク質合成のために徐波睡眠が必要であると主張しているのです。


また、レム睡眠が高等動物に多いことを重視して、レム睡眠こそ高度の精神活動に必須の眠りであるとしています。


そのほか、神経細胞の終末にあるシナプスの修復に着目する考えもあります。


"免疫過程としての眠り"も、睡眠が生体防御に役立つという回復説あるいは保護説の延長に位置する
ものでしょう。


イギリスのHorneは、「身体のためには睡眠は不要だが、脳の回復あるいは保全のために最小限度の睡眠(中核睡眠、coresleep)が必須である」と主張しています。


脳の発達程度に対応して、どうしても必要となる睡眠量が動物ごとに決まってくると彼は推論します。


しかし、多くの動物はそのほかにも特に活動しなくてもよい時間を眠りに当てて、省エネルギーなど生存上の策略に役立てているのであり、これはいわばおまけの睡眠(随意睡眠、optional sleepです。


したがって、眠りを短縮したいならこちらを削ればよいと示唆しています。


さらに、ヒトで大切なのは徐波睡眠ですから、これが睡眠期の初期に現れる中核睡眠に多いのであって、後半以降の随意睡眠にはレム睡眠が次第に増えるのだと説明しています。

回復説と不動化説

回復説に真っ向から挑戦して、睡眠不動化説を提唱したのがイギリスのMeddisです。


この説はWebbの分類に従えば、(4)と(5)との組み合わせたものになります。


睡眠学説の中ではもっとも"過激な"理論といえるでしょう。


彼は、羽毛 布団による睡眠は動物が外部環境に適応して生存をはかるための最も有効な手段として開発した技術であるといっています。


本来はエネルギーの消耗を避け、外敵に見つかることなく、静かに安全に時を過ごすために、生物時計を組み込んで、進化の過程で脳に内蔵した本能であると説いています。


レム睡眠は欠陥の多い古い眠りであり、ノンレム睡眠はその改良型であるとみなしているのです。


しかし、眠りが生存のために不可欠の役割を果たしたのは原始人の時代であって、現代人の睡眠はもはや進化の残澤みたいなものでしょう。


この本能を退化させて眠らなくてもよいようになれるだろうといいます。


もちろん、回復機能は覚醒時でも充分実現可能だと考えるのです。

役割の多様性

これらさまざまの考え方に決着をつけることは容易ではありません。


睡眠は進化の途上での比較的新しい生理機能として分化しつつあるので、役割自体がきわめて流動的に多様化しているように思われます。


したがって、生物リズムに依存する原始的な本能行動の面もあれば、精神的な葛藤の解決策としての高次の役割もあるということになります。


これらは人間本位で考えると次のように整理できるでしょう。


まずは、本能としての睡眠。


睡眠行動は脳の中に内蔵されてきた睡眠プログラムの発現です。


本能が充たされる時、独特の快感を伴います。


羽毛 ふとんなどによる快楽としての眠りという役割には無視できないものがあるでしょう。


一方、本能のプログラムの表れとして、生物リズムに依存していることがあげられます。


しかし、現代社会では生物リズムを乱す要因が多いです。


一般に"外界時計"のほうが"生物時計"より優位であり、特に"社会時計"が文明社会の人びとを拘束しています。


これら3種の時計の間の微妙な食い違いが、社会生活への不適応現象の引き金となることがあるのです。

平衡現象としての睡眠

まず、平衡現象としての睡眠について。


覚醒時間が長くなるほど眠気は増えます。


これを断眠すれば"睡眠圧"が非常に増大して、寝不足の埋め合わせが要求されてきます。


ノンレム睡眠不足の埋め合おせは、何はともあれ、眠りの深度を深くして質で補います。


一方、レム睡眠が不足すると、"はねかえり現象"が生じて失った分を同じ量で取り返すことになります。


また、眠れば眠気は急速に減ってしまいます。


いずれにしても、睡眠は生体のあるべき状態を維持しようとしてたいへん巧妙に調節されているのです。


次に、逃避や時間つぶしとしての睡眠というものがあります。


ヒトのように視覚に頼る動物は暗い夜間は活動に適していません。


外敵に襲われる危険も増します。


気温も下がるから身体は消耗します。


こういう不利な時間帯にはできるだけ安全な場所に隠れることが得策でしょう。


保温のよい羽毛 フトンなどのねぐらの中で休息し、感覚・知覚を遮断し、筋肉を弛緩させることがその解決法です。


それゆえ、眠って避けるという技術は動物界に広くみられる合目的性のある行動です。


その延長として、嫌なこと、気のすすまないことにも眠気が伴います。


さらに、することがないと眠気が起こるもの。


眠るしか方法がないというわけですね。


逆に、することが多いと眠気のほうが逃げてしまいます。

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